2020年 9月 9日
by Kittithat Promthaveepong
今日の市場では多くの電力会社が、100%再生可能エネルギーによるグリーンエネルギー料金プランを販売していることをよく耳にします。これは炭素排出量を削減させるという点で、再生可能エネルギーを支援し、消費者や企業に二酸化炭素排出量を意識させる直接的な方法であると言えます。
しかし、再生可能エネルギーの断続的な性質と、多くの電力会社が上流発電に統合されていないという事実を考えると、100%再生可能エネルギーでバックアップされた電力とは実際にはどういうものなのでしょうか。
Ofgemの燃料構成開示義務とグリーン・タリフ
2005 年以降、イギリスのすべての電力供給会社は、通年で電力を供給する場合、燃料構成を消費者に開示することが義務付けられています。企業の再生可能エネルギー発電を検証するために、イギリスのガス・電力市場庁(Ofgem)は再生可能エネルギー原産地保証書(REGOs)を使用します。電力供給会社も、EU加盟国のREGOに相当する原産地保証書を使用することができます。これらはイギリスで一般に販売されているグリーン料金の骨格となっているのです。
再生可能エネルギー発電にREGOを発行し、電力とは別に販売する
Ofgemは、発電事業者が生産する再生可能エネルギー電力 1MWh ごとに REGO を発行しています。REGOは生産された電力単位とは無関係に、独自の市場で取引されます。つまり、REGOのすべての価格はREGOの需要と供給によって決定されるのです。
図1:電力販売量とREGO販売量の比較
REGOは主に店頭市場(OTC)の当事者間で取引されているため、価格の透明性はほとんどありません。また、Renewable ExchangeやE-Powerなどのオークションサイトからも入手できます。電力供給会社は発電事業者からREGO を購入し、100%再生可能エネルギーの販売や燃料構成の開示に利用することができます。
イギリスでは多くの電力会社がグリーン料金を設定し、再生可能エネルギーの発電所を自社で保有しているところもあります。多くは卸売市場(再生可能エネルギーと化石燃料の混合燃料)から電力を調達し、この卸売電力を補うためREGOを追加調達しています。再生可能エネルギーは断続的という性質のため、需給バランスを取るための卸売市場が非常に重要となります。
電力会社間の差別化要因は、電力卸売市場への依存度の高さです。例えばA社とB社という2つの会社が、どちらも100MWhのグリーン電力を販売しているものの、その電力供給の形態が異なった場合、わかりやすくするために両社とも電力供給は再生可能電力のみとします。(自家発電と直接購入)。
- A社は100MWhの再生可能エネルギー電力を発電し、さらにREGOを購入しています。卸売市場を利用して断続性に対処し、負荷要件のバランスをとっています。
- B社の再生可能エネルギーによる発電は80MWhほどで、それ以外をREGOで調達しています。電力供給のバランスのために卸売市場に依存しています。再生可能エネルギー発電の要件を満たすために、20MWh分をREGOで購入しなければなりません。
2社の大きな違いは、卸売市場の役割とREGOの必要量です。A社は再生可能エネルギーでREGOを得ているので、追加で購入する必要はありません。卸売市場を利用するのは、バランスをとるためだけです。B社はバランスのためだけでなく、電力不足を補うためにも卸売市場を利用します。そしてこの20MWhの不足分のために、REGOを追加購入する必要があるのです。
この事例の卸売電力は、自家発電または直接購入といった化石燃料を使用した発電で代替することができます。
図2:電力卸売市場の役割
今日のREGO市場の供給過剰と価格の暴落
Ofgemの推定では、現在REGO市場は供給過剰とされ、2018年は供給が需要を20%程度上回ったとされています。これは、すべての再生可能電力がREGOで販売されてないためです。大規模な工場は、サプライヤーから最も安い電力を得ることしか関心がありません。供給側が政府による初期のインセンティブ制度によって、再生可能エネルギーをポートフォリオに組み込んでいる場合、余剰REGOを生み出すことになります。この現象は多くの消費者が依然として規定の料金を(多くの企業では混合燃料を利用)を用いている国内小売市場でも起こっています。
図3:REGO市場と燃料混合開示におけるその役割
この余剰分が、REGO価格の低さにつながっています。REGO証書の価格は30~50ポンド/MWh程度と言われています。 それに対しTesco、Sainsbury’s、Waitroseなどの大型食品店の平均的な電力料金は、2020年第1四半期に144ポンド/MWh[1]でした。
大型食品店の電気使用量を認証するためのREGOのコストは、電気料金の1%以下です。再生可能エネルギーの電力使用の認証は非常に安価なのです。
図4:大型食品スーパーの年間電気代
問題の根幹は、100%再生可能エネルギーによる事業という独自のセールスポイントが希薄になるところまで価格が下がってしまったことです。一部の公益事業者は、太陽光・風力発電所に直接投資することで電力購入契約(PPA)を直接締結していますが、この市場で差別化を図ることは困難となっています。また、新規の再生可能エネルギープロジェクトがREGOスキームから資金援助を受けることも難しくなっています。つまり、REGOは再生可能エネルギーの付加価値に貢献していない可能性があるのです。
再生可能エネルギーを支援したい企業への配慮
Ofgemによる規制介入がない限り、事業は可能。
- 徹底したデューデリジェンス:供給元が消費者に対し、どこから電力を調達しているか、電力買取市場にどれだけ依存しているか、再生可能エネルギーのポートフォリオ(自社工場とPPAの両方)を明確化します。
- 企業向けPPAの締結:電力供給とREGOの両方を一旦排除し、再生可能な電力を太陽光発電所や風力発電所から直接調達します。この場合、顧客や投資家に対して、どの太陽光発電所や風力発電所が再生可能エネルギーの支援をしているのかを正確に特定できるという利点があります。
- 再生可能エネルギーの自家発電を増やす:既存の資産を調査し、太陽光発電や蓄電システムのために資産のスペースを最大限に活用する方法を決定します。
REGOの需要が増えれば、市場原理によってこの価格問題が是正されるでしょう。イギリスは2050年までにカーボンニュートラルを目指しているため、企業やOfgemは早急にこの問題に取り組む必要があります。
ロンジェビティー・パートナーズは、エネルギーとサステナビリティの複合コンサルティング会社として企業のエネルギー転換をご支援します。再生可能エネルギーの採算性調査の導入において10年以上の経験を持ち、再生可能エネルギー発電プロジェクトのソーシング、交渉、企業向けPPAの評価についてお手伝いします。弊社のエネルギー業務の詳細については、アンソニー・マグワイア(anthonym@longevity.co.uk)までお問い合わせください。
[1] Based on the UK BEIS Data for the average energy consumption of a large food store and the electricity tariff for enterprises consuming 500-1,999 MWh/year.
[1] 大型食品店の平均エネルギー消費量(500~1,999MWh/年)と、企業向け電気料金の英国BEISデータに基づく。