不透明な時代におけるプロビデンスと不動産の未来

エティエン・カデスティン

 

当初中国で、人間の呼吸器に深刻なダメージを与える感染力の強いウイルスが発生したことが報告された時、このウイルスが数週間のうちに世界中に広がり、パンデミックとなって世界経済を停滞させることになるとは誰も想像していませんでした。

 

わずか3週間で、ウォール街では価値の5分の1を失い、世界の金融市場は大混乱となりました。経済的損失を食い止めるために、世界中の政府が何兆ドルもの景気刺激策を発表しました。100億の人々の生活を長く維持するために、自然が我々に送っているメッセージに気づき、調和するための道を模索しなければなりません。

 

これまでの配慮の不足により、地球に多大な害を与えてきたことを今こそ認めるべきなのかもしれません。 国連環境計画のインガー・アンダーソン氏が先週説明したように、この最近のパンデミックは、地球を破壊するのをやめよという、自然からの厳しい声なき警鐘とも言えるのです。一流の科学者たちも、これらの悪性の病気が大流行するのはほとんどの場合、人間の行動が原因であるという意見で一致しています。

 

地球温暖化と自然破壊の原因となる消費の増加、農業の工業化、無計画な採掘、炭素集約型建設との間には、明確な相関関係が存在します。例えば、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)新型コロナ、鳥インフルエンザ、ジカ熱など、最新の病原体のほとんどは野生動物が発生源となっています。

 

昨年10月、私は光栄にもエステートガゼット賞において、栄えある「不動産の未来賞」を受賞しました。この賞は、ヨーロッパの不動産部門をより包括的で責任ある産業とするため、10年にわたるロビー活動やその他の努力よって創設されたものです。その年の秋、不動産業界はいわゆるプロップテックへの投資が活況を呈し、堅調さを示しました。最大の問題は、多くの人にとっていまだに問題となる「値ごろ感」でした。

 

現在、不動産投資の状況は急速に変化しています。この機会に一度立ち止まり、反省し、新たな問いかけをするべきではないでしょうか。この不確実な時代に、不動産の未来はどうなっていくのでしょうか。この混乱から、より堅牢で機敏な業界としてどのように立ち上がることができるでしょうか。 持続可能な未来に向けてどのように再編成、再構築していけるでしょうか?

 

不動産の未来はどうなるのか?

 

ショップ、パブ、レストラン、ジム、クラブなどの実店舗は当面の間休業となり、航空機や鉄道もキャンセルが相次ぎ、自宅での在宅ワークが可能な人たちは、ライフスタイルが大きく変わり、オフィスはほとんど空の状態です。在宅やソーシャルディスタンスは永遠に続くわけではありませんが、ヨーロッパが新型コロナの危機から回復した後の未来はどのようなものになるのでしょうか。

 

  • 気候や危機に対する長期的レジリエンスは、競争力を高め、ビジネスを守る上での優先事項です。不動産投資家は、ネット・ゼロ・カーボンの実現を目指し続けるでしょう。
  • オフィスは従業員が集い、交流し、学ぶことのできる場所と変化し、座席数は大幅に減少します。在宅勤務が新しい標準となるでしょう。
  • その結果、今後のオフィス空間は従業員にとって、ウェルビーイング、生産性、文化、創造性、そして自然や持続可能性が集約した象徴的存在となります。
  • 資源不足と建設コストが主な懸念事項となり、建築家はますます循環型社会の定義を計画に取り入れるようになるでしょう。
  • レジャーとホスピタリティ産業は緩やかに回復し、ホテルの安全対策に対する顧客の要望は強まるでしょう。
  • 物流は、電子商取引の結果、ラストワンマイル配送と宅配ボックスの両方の需要が増加し、更なる需要に応えることになるでしょう。

 

この混乱からいかに強固で機敏な産業として生まれ変わるか。

 

現在の状況は、社会インフラへの投資が非常に長い間見過ごされてきたことを教えてくれています。ほとんどの政府や企業は、現在の危機に対処する準備ができていないのです。コロナ危機以降では、不動産投資の社会的影響を考慮し、雇用から、経済成長や福祉までを支援するために地域社会と関わる責任を負うことが重要になります。

 

コロナ危機以前、社会インフラ投資は苦戦を強いられていました。しかし現在は地方と国の両レベルで、民間と公共のパートナーシップを発展させる機会が訪れているのです。人的・社会的資本形成、貧困と社会的結束、経済成長と雇用は、すべて関連し合っています。投資家は今後、レジリエンスを高めるために不動産資産に投資する際、これらの要素を考慮しなければならなくなるでしょう。 

 

さらに良いニュースは、低炭素で気候変動に強い成長をめざすことが、持続的な経済的・社会的利益を生み出す最良の方法であることが証明されたことです。新しい気候経済学によると、現在から2030年の間に、気候変動対策の結果として2600万ドルの資金が創出され、6500万人の雇用が創出される可能性があるとされています。世界中のCEOやビジネスリーダーは、気候変動がもたらす長期的なリスクは同時に、ビジネスチャンスでもあると捉えています。地球の資源を枯渇させることなく、エネルギー需要を満たすためには今後、風、海、太陽の強力な自然の力を利用することが必要となるのです。

 

世界資源研究所によると、中国の製造業はコロナ危機が始まって以来15%〜40%減少し、同じ期間にCO2排出量がおよそ25%減少しました。ネット・ゼロ・カーボンへの移行が進む世界では、CO2排出量の少ない国が競争に優位性を持つことになります。気候変動目標を達成するために、調達やカーボン・フットプリントの計算に対しての改革が必須となるでしょう。

 

持続可能な未来をどのように再構築するか。

 

不動産業界は、社会のニーズに合わせた空間を提供しています。コロナ後には何らかの経済的な回復が見込まれます。 この回復が遅いか早いかは誰にもわかりませんが、それでもこれを機会に、社会福祉を含めた低炭素経済を推進し、何兆もの資金を引き出すことが極めて重要なのです。

 

OECDの最新報告書、“In it together”の中で、OECD事務総長は「包括的成長は、成長と平等の間になんの犠牲も必要ないことを明確に示している。」と説明しています。それどころか、機会の開放は、より強力な経済パフォーマンスに拍車をかけ、生活水準を全面的に向上させることができる、とも述べています。

 

不動産業界にとっては、地球と経済に良い影響を与えながら、どのように社会に貢献できるかを模索するこことを意味します。下図のように、危機が始まって以来ESGを重視する上場企業はパフォーマンスが良く、回復力が高いということがすでに分かっていますが、プライベートエクイティ(未公開株)投資にも非公開ながらも同じことが言えます。

プライベートエクイティ不動産投資会社は、気候変動リスクと社会福祉に対する確固たるアプローチを開発するよう、投資家からますます求められるようになってきています。欧州の年金基金の中には、こうした責任投資原則に対応する計画がない不動産ファンドには投資しないというところも少なくありません。これは普遍的になっていくでしょう。

 

投資会社は、リーダーシップ、アプローチ、文化、方法論、ビジョンなどがそれぞれ異なります。私たちが今注目しているものは、企業がこの機会を利用してビジョンを再定義し、自社のDNAに合ったESGプログラムを開発するという魅力的なものです。気候変動と社会的危機に対するこの大規模な複合的対策は、不動産の未来を形作るものとなるでしょう。

 

 

 

 

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