2020年 12月 8日
Anneli Tostar 著
2015年、アメリカはパリ協定に参加しました。気候政策に縁のなかった方のために説明すると、パリ協定とは個々の国が特定の炭素予算を約束するための協定でした。アメリカは2025年までに、排出量を2005年レベルから約28%削減することを約束しましたが、この基準は未だ到達できていません。協定は拘束力を持たないものの、それまで実現できなかった気候問題における国際協力の舞台を整えるものとなりました。
トランプ大統領により、その後アメリカはパリ協定から脱退しました。アメリカは世界で唯一脱退した国となっただけではなく、トランプ政権下の4年間、100にも及ぶ環境規制を緩和・撤廃したのです。ロディウム・グループの分析によると、前大統領の任期中に環境規制を5つも白紙に戻した結果、2035年までに18億メートル・トンの温室効果ガスが排出される可能性があるとされています。したがって次の政権にとって、気候変動は再優先課題でした。専門家によるとバイデン政権は、トランプ政権が行った規制緩和の大幅な撤回だけでなく、多角的部門で気候重視の政策を打ち立てる時代の先駆けとなると予測しています。バイデン政権のコロナ救済政策では、グリーン産業に多額の資本を注入し、世界中の関連機関に圧力をかける可能性があると見ています。ジョン・ケリーは、”CLIMATE CZAR “(気候皇帝)と名付けなれました。バイデンの気候計画は、50万台の電気自動車用充電ステーションと150万戸のエネルギー効率の良い新築住宅の建設を目標としています。バイデン氏のより高い目標のいくつかは実現できないかもしれませんが、少なくとも何らかのグリーン政策を鼓舞できるものになるでしょう。ワシントンポストは、「気候アクション・トラッカーの最近の分析によると、もしバイデン大統領の計画が完全に実現すれば、2100年までに地球の気温上昇を0.1度下げることができる 」と報道しました。
連邦レベルでの持続可能性への焦点は、ここ数年広がったものが結実したものです。というのも、気候変動に対する取り組みはトップレベルでは一致していないものの、ビジネス界や都市レベルでは、炭素排出を削減するための著しい変革が組織的に、そして地道に進められています。世界全体の温室効果ガス排出量の約40%を占める不動産セクターは、まさにこの変革に該当する産業といえます。
都市レベルでは、エネルギー効率の構築と再生可能エネルギーの普及が新たに注目されています。2019年、アリゾナ州では18,000棟以上のENERGY STAR認証住宅が建設されました。 ユタ州では、23の都市や郡が2030年までに100%再生可能電力を導入することを決定しました。カリフォルニア州の35都市を含む数十の都市が何らかの形でガスの使用を禁止するなど、より厳しい建築規制を可決しました。
不動産投資界も同様です。9月には、ESG(環境、社会、ガバナンス)要素を優先するインデックスファンドの資金が2億5千万ドルに達し、多くの不動産オーナーが2050年までに炭素排出量ネット・ゼロ・オペレーションを達成することを決定しました。その多くは達成期限を早い段階に設定しています。ネット・ゼロ資産家同盟は、全世界で5兆ドルを超える資金を有しており、2025年までに不動産投資における脱炭素化目標を16-29%に定めました。
気候変動に重点を置く新たな政策は、市、州、連邦レベルで既存の流れに沿って策定されています。不動産所有者は、「グリーンウェーブ」を受け入れ、先手を打つことが重要です。
ここからは、今後数年間に期待される不動産サステナビリティの3つのシフトを紹介します。
- エネルギー効率を第一とする
バイデン・プランでは、”4年間で400万棟の建物の改良、200万棟の住宅の耐候化、そして組合への加入選択ができる高賃金の仕事を100万人分創出すると掲げられています。また、住宅の光熱費を削減する家電製品の改良と電化、冷暖効率の良い窓の設置のための住宅改修費、及び省エネ家電の製造サプライチェーンの拡大を公約しています。しかしエネルギーコードを設定していない州では、エネルギー効率の基準を設定することにいまだ懐疑的です。
エネルギーの効率化は、二酸化炭素排出量を削減する最も安価な方法であり、ネット・ゼロ・カーボンへの最初のステップでもあります。特に付加価値の高い不動産投資においては、不動産を改造し、付加価値を生み出す大きなチャンスと言えるのです。
現在はニューヨーク市をはじめ、全米の多くの都市がエネルギーベンチマークの実施を義務付けている時期でもあります。その結果、上場企業もコンプライアンスに従うところも出てくるでしょう。大規模な商業施設では、エネルギーの効率化が特別なものではなく標準化されると予想されるので、そのための準備をすることを強くお勧めします。
- 気候変動リスクに対する真摯な対応
最近イギリスでは、大規模な金融企業に対し、2025年までに気候リスクの報告を義務付けると発表しました。アメリカではこういった動きに対する企業のロビー活動が活発化しているため、気候リスクの報告への注目は今後も続く可能性があります。2020年にアメリカで発生した自然災害のうち、50件以上が被害額10億ドルを超えることを考えると、その傾向はより強くなります。 最近ムーディーズとトレップは、CMBSレポートに気候リスクスコアを追加しました。 気候リスクは、企業が無視できないほど被害額が大きいのです。 ブラックロック(世界最大の資産運用会社)のCEOであるラリー・フィンクはつい最近、気候リスクの開示の義務化を支持すると表明しました。
投資家が気候リスクの構造を理解し、持続可能性のデューデリジェンスが買収プロセスにおいてより重要な役割を果たすことを期待します。
- 再生可能エネルギー技術への大規模な投資
気候変動への取り組みが必須でなくとも、再生可能エネルギーへの投資は理にかなっています。この春、石油の価格がマイナス一桁になったにもかかわらず、太陽光発電への投資は好調でした。8月には、アメリカの太陽光発電市場は、前年比100%以上の成長率に達しました。バイデン政権は、自然エネルギーの雇用創出に重点を置いた景気促進策の成立を目指すと予想されます。
不動産オーナーにとって、これはどのような意味を持つのでしょうか。明言はできませんが1つだけ確かなことは、再生可能エネルギーがより普及し安価となり、調達がより容易になったということです。オーナーは不動産から追加収入と、太陽光発電によるNOI(純収益)で、持続可能な方法でリターンを高める絶好の機会を得ることになります。不動産オーナーは、気候目標の達成が企業の需要に応えることができます。カリフォルニア州ではすでに、すべての新築ビルにソーラーパネルを設置することが義務付けられており、今後市や州レベルでも、さらに規制が強化されると見込まれます。
これらの様々な改善にも関わらず、気候変動の問題の解決は容易ではありません。願わくば連邦政府の気候変動対策が進むことで、これまでこれらの問題に消極的だった投資家も持続可能な不動産投資へ関心を持つようになるでしょう。炭素排出への取り組みを始めるタイミングを探っているなら、今がまさにその時です。
私たちロンジェビティー・パートナーズは、アメリカの不動産市場の成長をお手伝いいたします。オースティン、サンフランシスコ、ニューヨークのほか、ロンドン、パリ、アムステルダム、ミュンヘンにオフィスを構え、資産やポートフォリオレベルで、企業の持続可能性に対するグローバルなアプローチをお手伝いします。