改正EPBDはオランダの不動産部門セクターに対し、ネット・ゼロ・モビリティへの貢献について再考を要求した

 

先日、改訂版のエネルギー性能建築物令(EPBD)が発令されました。この発令は、建物のエネルギー効率を高める政策を実施するよう加盟国に求めるものです。オランダ政府はそれに従って行動し、2020年3月20日に新しい政策を開始しました。既存資産、および将来の資産における電気自動車用の充電インフラの提供に関する要件を定めています。これは不動産業界にとって重要な意味を持ちます。また別の規制では新たな価値創造の機会も提供しています。本稿では、改正EPBDの要件と、それがオーナー、デベロッパー、投資家、アセットマネージャーにもたらすリスクと機会について概要を説明します。さらにロンジェビティー・パートナーズが、今後いかにビジネスチャンスを捉え、不動産業界を支援していくかを説明いたします。

 

オランダにおける電気自動車(EV)の利用は増加傾向にあります。2019年の「新規販売EVSの乗客シェア」では、総販売台数の13.9%に達し、2018年の5.4%と比較するとその差は明白で、オランダは欧州のフロントランナーの一国となったのです。EVの新規登録のシェアが高いのはノルウェーで、実に41%にも達しています。この高いシェアは、同国の有利な税制と水力発電への依存度が高いため、化石燃料を使用する国と比べてEVへの切り替えが比較的手頃なことが理由として考えられます。

 

オランダの充電インフラの普及率はヨーロッパでも群を抜いており、2017年には、オランダのEV1台に対して約0.26基の充電ステーションが設置されました。 これは保有台上位3カ国であるノルウェー(0.05)、ドイツ(0.15)、イギリス(0.10)を凌ぐものです。 総合的にオランダは2050年までにゼロ・エミッションモビリティを実現するという公約を問題なく達成すると見込まれます。

 

オランダの国家気候協定(NCA)は、この公約を達成するために運輸・交通部門が行うべき概要を説明しています。2030年までに新規販売の自動車を、EVを中心としたゼロ・エミッション車にし、180万基の充電ステーションを整備します。これまでオランダ政府は、補助金制度や排出ガス・ゼロゾーン、グリーンディール電化輸送など、EVに有利なさまざまな政策を採用してきました。特に充電ステーションの数については、まだ改善の余地があります。オランダの充電インフラは密度が高い反面、2018年の利用可能な充電ステーションはわずか137,000基でした。これはNCAで規定されている180万台構想の内、わずか0.08%です。消費者はEVを購入する際の障壁として、高い価格と短い走行距離に次いで、充電ステーション数の不十分さを3番目に挙げており、問題視されています。そのため政府は、EV移行促進のため、大幅に充電ステーションを増やす必要があります。

 

改正EPBDは将来のEV利用の推進力となり、今日の不動産業界にも影響を与えている

 

改正EPBDにより、政府は新たな手段を手に入れたことになります。この命令は特に、建築物で利用可能となる充電ステーションの要件を規定しています。 許可申請の段階にあるプロジェクトにとっては、追加で遵守すべき要件となり、建築物に対する有効なエネルギーラベル要件と同様に、既存の不動産についてもこれに違反すると、罰金が科せられる可能性があります。以下の表は、ケースごとの指令の概要です。

 

 

この新しい規定は単に遵守を求めるだけでなく、ゼロ・エミッションモビリティへの移行において不動産業界が果たすべき重要な役割を示唆しています。モビリティ移行への問題を提起するだけでなく、都市構造における充電インフラの統合に関連する空間的な課題も提起しているのです。充電インフラが不十分な場合、資産の価値や市場価値が低下する可能性があります。今後の建築施設にとって、インターネットへの接続と同様に、充電ステーションやその他の電気自動車用設備は、テナント、従業員、顧客を得るために不可欠な設備となるでしょう。このような新たな需要に対応できない企業は、競争優位性を失う恐れがあります。

 

改正EPBDは住宅、商業施設、官公庁の不動産にとって価値創造の機会となる

 

資産の価値を見直すことに成功した人は、大きな価値を得ることができます。充電スタンドの普及は、テナントの誘致や維持に役立ち、物件の価値に付加価値をつけることができます。このことは、アメリカの住宅市場のトップ20を分析した結果、EVフレンドリーな地域の物件はプレミアム価格で販売されていることからもわかります。 一方小売業者にとっては、顧客が自動車に充電している間、店内で買い物をする機会が増えることで収益が増加します。また、企業や政府機関にとっては、持続可能なオペレーションを推進することで、保有車両の電力化の促進が可能となり、その購買力と保有車両の規模を考慮すると、充電ステーションは重要な収入源となります。

 

また今後は更に包括的で強固な半公共インフラが必要となります。現在、オランダの充電ステーションの73%は私有地に設置されており、残りの27%は半公共スペースに設置されています。世界的に見ると、90%以上が私有地に設置されています。この状況は、次世代のEV利用者の生活習慣によっても変化します。この世代は主に、都市部の密集した場所に住む中・低所得者層で、集合住宅に住んでいることが多く、駐車場を共同で利用し、家庭用充電器の選択肢も限られています。その結果ヨーロッパでは、充電の少なくとも60%が半公共の場で行われると推定されています。このような新しいEV所有者に公共充電を提供することは、不動産関係者に新たな価値創造の機会を提供することにもなります。特に賃貸物件のオーナーにとっては、貴重な設備となることでしょう。賃貸物件に住む電気自動車所有者は、充電のニーズさえあるものの、公共の充電ステーションに頼ることとなります。そういった意味で、公共のステーションは別の資産グルーとして分けて考えるべきかもしれません。構造上の制約がある都市部では、商業用駐車場は公共インフラのプラットフォームとして興味深い存在です。また、新興のe-モビリティネットワークに物件施設を接続することで、新たなパートナーシップや顧客層を開拓できる可能性も広がります。

 

一方、持続可能性に対する社会の目は厳しさを増し、企業はエネルギー消費とCO2排出の削減を迫られています。充電インフラの導入は、企業のサステナビリティ戦略における新たな手段となります。充電ステーションを提供することで、従業員の電気自動車利用を促進すれば、企業のスコープ3排出量にプラスの影響を与えます。さらに電気自動車用サービス機器を導入することで、施設のエネルギー使用量をより広範囲に統合管理することが可能になります。また太陽光発電システムなど、分散型エネルギー生成・貯蔵のためのソリューションと統合することで、企業のスコープ1排出量を削減することも可能です。これらの成果は、GRESBなどの不動産に関するグローバルサステナビリティのベンチマークに大きな価値を与えます。不動産業界は、EVと充電ステーションが生み出す価値を考慮したEV戦略を立てる必要があるのです。

 

ロンジェビティー・パートナーズは、企業がEVの価値をどこで、またどのように得ることができるかを理解するEV戦略を開発・ご提供しています。

 

EV戦略の策定は、企業にとって困難な課題です。充電技術にはさまざまな種類があり、資産によって充電容量やニーズが異なります。さらに電気自動車のサービス機器を既存のエネルギーインフラに接続することで、技術的・法的な問題が起こる可能性があります。分散型エネルギーやストレージのソリューションと統合する場合は、さらに複雑になる可能性があります。資金面では様々なコストと補助金が適用されます。ビジネスモデルも多数存在し、その結果も様々です。また、充電がどこでどのように行われるかを予測することも重要であり、ステーションが望ましい収益を上げつつ排出量を削減するために、地域差や地理的特性を考慮して判断しなくてはならないのです。

 

ロンジェビティー・パートナーズは、EV 戦略に関する顧客への提案業務において確かな実績があります。私たちは、不動産投資家のe-モビリティソリューション導入時、資産レベル、戦略的サービスなど、幅広くサポートいたします。ポートフォリオレベルでは、地域別の優先順位分析、ハイレベルな設備投資とシナリオ分析を実施し、お客様に最適なEVサービス戦略と主なアクションエリアを理解するお手伝いをします。資産レベルでは、充電器設置のキャパシティを把握したい物件の計画的段階評価を行い、事前目標を統合した最適な見積もりを作成します。次に、充電シナリオの最適化に関する資産レベルのガイダンスを行い、設置のための具体的なパッケージを作成し、設置までの継続的なサポートを提供します。また、建物内のエネルギー管理の統合の経験もありますので、資産レベルでのEV、PV、ストレージの一括分析も提供できます。最後に、ロンジェビティー・パートナーズは、BREEAM認証やGRESB評価などの手段で、お客様の持続可能性へのコミットメントをお手伝いします。これらのグローバルな方法論は、採用された内容を考慮し、組織の持続可能性のパフォーマンスに関する透明性を提供します。

 

 

EV戦略をいかに包括的に考えるかは、興味深い論点です。新型コロナにより危機的状況に追い込まれた現在、世界全体を見直すチャンスととらえるべきという声は、実に世界中からあがっています。そして持続可能な社会への必要性が高まるにつれ、より厳しい環境政策も増えていきます。不動産業界とEVの関係に影響を与える法律が、改正EPBDで最後になるとは考えられません。例えば、オランダの最高裁は2019年に、同国政府は排出削減を加速しなくてはならないという判決を下し、欧州委員会は近日中に独自の裁量で、短期的に拘束力があり、削減目標を設定する仕組みとなる気候法を提案しました。いずれも運輸と交通において、排出量削減の取り組みを強化するよう求めることになります。その結果、現在EPBDを遵守している組織であっても、明日には遵守していないことに気づくかもしれません。ロンジェビティー・パートナーズは、このような事態に対応し、常に時代の最先端を行くことができるよう支援します。

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