パリ協定実現のための国内法整備の動きと価値

著: Yusaku Akita, Marketing and Communications Assistant

はじめに – パリ協定と日本の目標設定

パリ協定とは、2015年にフランス・パリで開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議 (COP)」で、史上初めて全196か国が同意した温室効果ガス削減に対する枠組みである1。その内容は、現在深刻化している気候変動を抑制するため、地球の平均気温上昇を長期目標として「2度未満に設定する」と同時に「1.5度に抑える努力を追求する」というものだ。1997年に本邦で開かれた「京都議定書」は聞き覚えのある方が多いが、その後継となる「パリ協定」についてはあまりよく知られていないのが現状だ。その国際的な目標に加えて、2020年10月26日に、当時の総理大臣であった菅義偉が、所信表明演説にて、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と表明した。その翌年には2050年の脱炭素化(二酸化炭素排出ゼロ)に向け、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」閣議決定した後、国連へと提出した。こういった経緯を経て、日本の脱炭素化への道は始まった。

パリ協定を契機にカーボンニュートラル実現の政策・法整備が加速

パリ協定とそれに続いた日本の長期戦略は、これまでの企業のあり方を変え始めた。特に、地球上の二酸化炭素総排出量の約40%2を占めると言われる建築業界に対する変革が求められいる。国・都道府県や自治体は、不動産運用会社に対し環境配慮に関連した情報の開示性3を求め、様々な法改正を行ってきた。その中でも注目を浴びているものを紹介する。

建築物省エネ法 改正4

2023年までの、新築に対するZEH・ZEB水準の省エネ性能の標準化を目指し、大規模(2000㎡以上)・中規模(300㎡以上2,000㎡未満)の非住宅のみならず、中大規模の住宅と小規模(300㎡未満)の住宅・非住宅に対して標準基準を上回る省エネ性能の確保が義務化された。建築主は性能向上を図り、建築士からの設備説明を踏まえた後、着工しなければならない。

東京都「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」5

省エネ法の改正に加えて、東京都は2,000平方メートル以上の中・大規模の新築建物に限らず、2000平方メートル未満の新築住宅・建築物が対象となる新制度「建築物環境報告書制度」が2025年4月から導入される。制度の重要事項となるのは「省エネ性能」、「省エネ設備」、「環境性能の説明」「都への報告」となる。環境性能の高い建築物には、専門的な知識を要することが多くあるが、施主・購入者共に正しく理解する必要がある。

大阪府「気候変動対策の推進に関する条例」6

同様に大阪府でも、温室効果ガス削減による環境保全に関する気候変動対策を推進させるため、「気候変更対策の推進に関する条例」が施行され、建築物の新築・増改築をしようとするものは、建築物の大小に関わらず、大阪府の建築物環境配慮指針に基づいて、建築物の環境配慮のための措置を講じる必要がある。また、特定建築物(2,000㎡以上の新築・増改築)については、建築主は、建築物環境計画書の提出が義務化されたほか、建設期間中に建築物環境性能表示ラベルの現場に表示する必要がある。加えて、竣工後3年以内に販売・賃貸する場合は、ラベル表示を広告に表示することが義務化された。

クリーンウッド法 改正7

2023年2月28日に閣議決定されたこの法案改正は、2027年度からの導入に向け違法に伐採された木材の流入・流通を防ぐため、木材の仕入れ先からの証明書の提示を義務化させる。これまで日本は違法に仕入れられた木材の使用に対し罰金・罰則がなかった結果、ヨーロッパやオーストラリアからの非難を浴びていたが、その状況にも終止符を打つことになりそうだ。
 
国内での建築物に関する法案はより持続可能な開発目標を意識したものと言えよう。しかし、アジア諸国では、すでに世界基準に合わせる動きも見受けられる。シンガポールでは、2027年度から導入される国際サステナビリティ基準委員会のガイドラインに則った「気候変動開示規則案(TCFD)8」が注目を集めている。TCFDは、気候変動のリスクと機会、ガバナンス、戦略リスク管理、報告対象の指標と目標に関 する情報を、利害関係者に提供するものである。年間収入が10億シンガポールドル以上の企業に適用され、資産運用関連会社は、急激な法整備の変化に対応を迫られる。しかし、これら国内外の動きは、決して資産運用に対して不利益ではなく、それどころか大きな資産価値を生み出す大きなチャンスとなる。

パリ協定から生み出される価値

グリーン・ビルディング(高い環境性能を有する建築物)は、投資家や運用資産会社にとって魅力に溢れている。コンサルティング会社大手のEY9も、資産を手放す際に、法改正リスクが低減されているため、資産価値の向上が見込めると謳っている。サステナブル投資がより標準化されるにつれ、この分野における重要度が高まり、市場性が高まることが予想されている。Global Sustainable Investment Alliance (GSIA)10によれば、2020年初頭にはすでにサステナブル投資の総額が、353億ドルを上回っており、2018年から2020年の二年間だけでも15%の成長率が見られた。さらには、こちらもコンサルティング大手であるPwC11は、ESG関連運用資産の総額が、2021年の184億米ドルから2026年の予想では339億ドルに増加すると予測している。年平均の成長率は12.9%と予測され、5年以内には、世界の総資産の21.5%はESG 関連運用資産となる勢いとなっている。

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